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昭和臭い町工場で、しかも高校を中退しているような人間が作る技術を、 信頼できるわけないだろうが。 俺が父親の思いをついで完成させた 炭造技術を取引先へプレゼンすると、白石は資料を投げつけ罵倒してきた。 くだらん時間だった。もう帰っていいぞ。 彼には何も響かなかったようだが、 絶対にこの技術は世に広まるものだ。 後悔しても知りませんからね。 この騒動を機に、俺や白石の会社は予想できないほどに大きな変化を迎えることになる。 俺の名前は橘龍介、29歳。 町工場橘炭鉱所の社長兼職人だ。 高校は中退した。 学校の勉強より、俺には父から直接学んだ炭造技術の方が性に合っていた。 父は天才的な炭造職人で、伝統的な日作りと最新の金属工学を融合させた多層炭造技術を開発した人物だった。 そして俺はその技術を受け継ぎ、多層炭造分子接合の特許を現代的に完成させた。 少なくともそう思っていた時期もあった。 今日も朝から熱した鉄を叩き続けている。 工場内には打撃音が響き、油の匂いが漂い、火花が飛び散る。 これが俺の日常だ。 鉄を打つリズムはまるで俺の鼓動そのものだ。 日作りは単なる仕事ではなく、血に流れる情熱なのかもしれない。 赤熱した鉱材に向かって、大きな金槌を振り下ろす。 鉱材からは小さな火の子が舞い上がり、工場内に散る。 その光景は、星が降るようで美しくもある。 その温度帯ならあと3度叩き込みだ。 焦るなよ、ぼっちゃん。 声の主は大竹守、60歳のベテラン職人で、 父の代から工場に勤めている。 俺のことをぼっちゃんと呼ぶが、今では一流の職人として認めてくれている。 大竹師匠の目はごまかせない。 鋼が何度であるか、どれだけの力で叩くべきか、 すべて経験から導き出される職人の勘なのだ。 ああ、わかってる。 今、父さんのノートに書いてあった通りの温度で叩いてるんだ。 その時、事務所から妻の七日が工場に入ってきた。 彼女の姿を見ると、いつも心が少し軽くなる気がする。 また徹夜作業? ちゃんと寝なきゃダメだよ。 27歳の七日は、工場の経理、書務を担当している。 口調は明るくパワフルで、いつも俺を精神面でもサポートしてくれる存在だ。 彼女がいなければ、この工場はとっくに潰れていただろう。 経理の才能だけでなく、俺の暴走を止める貴重な存在だ。 悪い、もう少しだけ。 この部品、明日の堂島産業でのプレゼンに使うんだ。 俺は汗を拭いながら、作業台に置いてある父の研究ノートに目を向けた。 そこには、高温炭素をかける焼き入れで分子構造を変化させる、 包丁や刀鍛冶の容量で複数の金属層を重ねる、などの詳細なメモが綴られている。 父の地は力強く、時に乱暴だが、その中に溢れる情熱は今でも感じることができる。 親父の夢、俺が形にしてみせるからな。 父は3年前に病で多戒した。 最後まで炭造技術の研究を続けていたが、歓声を見ることはなかった。 その意志を継いだのが俺だ。 高校は中退したが、父から直接学んだ技術は誰にも負けない自信がある。 たとえ世間が学歴で人を判断しようとも、 俺には誇れる技術がある。 作業を終え小さな事務所に戻ると、 七日が心配そうな顔で帳簿を広げていた。 蛍光灯の下で彼女の表情はいつになく暗い。 りゅうすけ、このままだと今月分の支払いがかなりきついわ。 大手企業との取引をぜひ掴みたいね。 俺は疲れた顔を洗いながら答えた。 冷たい水が肌に当たり、少し頭が冴えてきた。 ああ、銅島産業へのプレゼン準備が進んでるから、 そこに賭けるしかない。 七日は困った顔で首を振った。俺が年商6兆2000億の特許保有者だと知らない取引先社長「中卒で、町工場の人間は信用しないから帰れw」俺「え、いいんですか!?」➡︎速攻ライバル会社に営業した結果w

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俺の名前は朝野誠、35歳。中卒の工場勤務だ。花々しい経歴なんてない。高校にも行けなかった。 親父が病気で倒れて家計を支えるために、15歳の時から働き始めた。 でも、独学には誇りがある。機械いじりが好きで、 よなよな古い部品を集めては組み立てて、自分だけの発明品を作ってきた。 工場の片隅に設けられた自分の作業台の前に立ち、新しいジグの設計図に向かう。 修理工業の工場内は朝から機械音で活気に満ちていた。 朝野、この部品どうなってる? 部長が声をかけてくる。俺の直属の上司だ。 いつも眉間にシュワを寄せているが、目は優しい男だ。 はい。 この継手部分を改良して、耐久性を30%ほど向上させました。 図面通りに進めています。俺は自信を持って答えた。 大学や専門学校で正式に学んだわけじゃない。 すべて独学と経験だ。 でもその知識は本物だと自負している。 おお、またお前の独自改良か。 相変わらず頭の回転が早いな。 そう言って部長は肩を叩いていった。 この会社に入って8年。今では主任候補として認められている。 最初は中卒という肩書きに不安もあったが、結果を出し続けることで周囲の信頼を勝ち取ってきた自負がある。 家に帰ると妻の彩香が戦い笑顔で迎えてくれた。 彩香は俺より3つ年下の32歳。 おかえり、まこと。今日も遅かったね。 ああ、新しい部品の試作に時間がかかってな。 また何か発明してるの? その言葉に少し照れながらうなずく。 彩香は俺の発明熱を一番理解してくれる人だ。 ああ、製造ラインの効率化も考えててな。 もしうまくいけば作業時間が2割は短縮できる。 すごいじゃない。あなたの頭の中はいつも新しいアイディアでいっぱいね。

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母親の介護で出社できない? 馬鹿は言い訳ばかりいっちょ前だな。 俺が部長に電話をすると、笑いながら罵倒してきた。 だいたい、お前みたいな窓際社員は この会社に必要なかったんだ。 せっかくだから、やめていいぞ。 ああ、そうですか。それでは、 部長は人を見る目がないのだろう。 そして俺がいなくなったことで、 この会社は今まで類を見ない大事件が発生し、 部長は今の地位を失うことになる。 俺の名前は黒田俊、30歳。 不動産会社、極高リアルエステートの 総務部で働いている。 正確には総務部兼ホームサポートだが、 実質は何でもやだ。 朝はいつも一番乗り、誰もいないオフィスで 昨日までに溜まった仕事を片付ける。 今日も真っ先に出社してデスクに向かっていた。 賃貸契約の更新書類、売買契約書の重要事項説明、 観光庁への提出資料。 一つずつ丁寧に確認し、間違いがあれば修正する。 そんな地道な作業の繰り返しだ。 ここの住所、地盤と住居表示が混同されてるな。 指先で軽くタイプし、データを修正する。 不動産取引では、わずか一文字の誤りが数百万、 時には数億円の損失につながることもある。 だからこそ俺は細部までしっかりと目を通す。 時計を見ると8時半。 そろそろ他の社員たちが来る時間だ。

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いくらだ?どうせお前らが欲しいのは金だろ。 商談で2時間待たされた挙句。取引先の社長の第一声は、謝罪どころか、俺をバカにした発言だった。 私はお金よりもこの技術をどう扱うかが大事なんです。 何を偉そうなこと言ってんだ。結局は金がないと何もできないんだよ。 いいからその技術をようこそ。大企業の我が社が広めてやる。 その後も彼は、技術者全員を敵にする発言を繰り返している。 もういいです。この話はなかったことに。 これは大企業の甘い誘惑に負けず、技術者の俺が本当の栄光を掴むまでの物語である。 俺の名前は桐生理久。35歳。スタートアップ企業ギアサイクル社のCTO。最高技術責任者だ。 ここ数年、ずっと開発に取り組んできたブレークレスバッテリーシステム。通称BBSの検証データを眺めていた。 オフィスの静かな夜。モニターの青白い光が俺の顔を照らしている。 データは予想以上に安定していた。 停電や災害でも電力供給が途切れることのないバッテリーシステム。 BBSは俺が幼い頃からの夢を叶えてくれる技術だ。 コーヒーを一口飲んで、ふと15歳の夏の記憶が蘇る。 祖父は在宅医療を受けていて、呼吸器が欠かせなかった。 あの日、突然の停電で機械が止まりかけた時の恐怖は今でも鮮明に覚えている。 慌てて手動で空気を送る作業。祖父の苦しそうな表情。 数分だったが永遠に感じられた。 電力が途切れることで命が危険に晒される人がこの世にいる限り、必ず解決策を見つけてみせる。 その誓いが俺をエンジニアの道へと導いた。 そして去年の台風災害、避難所に試作品のBBSを持ち込み、 医療機器に原力を供給し続けることができた時は、ようやく自分の原点に立ち返れた気がした。 ドアが開き、同僚の佐々木が顔を出した。 【佐々木】桐生さん、まだいたんですか? 【佐々木】重大ニュースですよ。天道ロボティクスからコンタクトがあったそうです。 天道?あの大手か? 【佐々木】そうです。うちのBBS技術に超興味持ってるらしくて、 【佐々木】なんでも大規模投資、50億円規模の契約になるかもしれないって。 俺は眉を潜めた。確かにギアサイクル社の資金繰りは楽ではない。