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よーし、これで俺は社会貢献もできてお金も稼げる。いいこと尽くしだな。 同じ病院に勤めている西条は、俺が長年研究してきた臨床データを盗み、論文にして世に広めようとしている。 やあ、持つべきものは友ってやつ?俺は恵まれてるわ。 その後も彼はニヤニヤと俺に長ったらしく説明を繰り返していた。 そのデータだけはやめろ。取り返しのつかないことになるぞ。 何急にムキになってんだよ。世のため人のためだぞ。誰が言おうが関係ねえだろうが。 彼は何もわかっていない。今このデータを世に出すわけにはいかないのだ。 そんなことを知るよしもない彼は、今回の浅はかな行動を一生後悔することになる。 俺の名前は北條宗介、38歳。東洋医科大学病院の研究職兼医師だ。 数年前まで海外の研究機関に勤めていたが、日本に戻ってきた帰国組の一人。 派手さはなく地味な医者という印象を持たれがちだ。 そんな俺が今いるのは、難治性がんや希少疾患の先端研究を行う東洋医科大学病院の研究センター。 国内外から期待されている重要拠点だ。 今日も変わらず研究データと向き合い、患者たちの検査結果を丁寧に分析している。 北條君、今日もお熱心だね。 振り返ると、病院の理事長である西条照明が笑顔で立っていた。 65歳とは思えない凛とした佇まいの持ち主で、一代でこの病院を大きく発展させた人物だ。 あ、理事長、こんにちは。今、免疫治療の新しいデータを分析していました。 君を迎えたのは正解だったよ。海外での君の実績は知っている。 あの画期的な免疫療法の試験運用の成功は国際的にも高く評価されていた。 君は彼の言葉に少し照れつつも、心の中では嬉しさを感じる。 日本ではまだあまり知られていませんが。 それがもったいない。もっと自分をアピールしてもいいんだよ。 患者さんのためになる治療法を確立することが第一です。華やかな発表は苦手で。 そう言いかけた時、廊下から高圧的な声が聞こえてきた。 声の主は理事長の老いである西条修司。29歳という若さで病院の事業企画室長に就任している。 見た目は爽やかだが、内面は…。 おい、この書類は何だ。こんな予算配分では話にならない。やり直せ。 部下らしき職員が小さくなりながら立ち去るのを見送った後、修司は俺たちに気づいた。 あ、おじさん。こんなところにいたんですか。 北條先生も。地味な研究、今日も続けてるんですね。 その言葉の裏には明らかな軽蔑が含まれていた。 修司、北條先生は優秀な研究者だ。もう少し敬意を持って接しなさい。 はいはい。でもおじさん、今の病院に必要なのは地味な研究じゃなくて、パッと目を引くような成果ですよ。資金も集まりますし。 理事長は溜息をついた。修司は最近、病院の改革に熱心でね。若い力を生かそうと思って任せているんだが。 改革は必要です。このままじゃ他の大学病院に遅れを取りますよ。私には投資家や行政とのパイプがあります。それを生かさない手はないでしょう。 彼の自信に満ちた態度に理事長は苦笑いを浮かべる。俺は黙って聞いていたが、修司が何を考えているのかはうすうす感じていた。 彼にとって病院の発展より自分の手柄が第一なのだ。 それよりおじさん、あの新プロジェクトの件、検討してもらえました? うむ。それはもう少し時間が必要だな。 時間がないんですよ。チャンスを逃しますよ。俺の未完成の臨床データを横取りして論文で発表し出世を目指す理事長息子「養分になってくれてありがと。クビw」俺「了解」➡︎退職後に完成させ特許取得した結果…w

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おい、中途のおっさん。これを教授に訳せなかったらお前はクビな。 俺の所属する部署の若手ホープである久米から、英語の商談資料が机に叩きつけられた。 さっと目を通して確認したのち、俺は確信した。 なんだ、この会社か。ありがとうございます。もう終わったのですが。 は?超有名大学を出た俺でさえも8時間はかかる内容だぞ。 クビになりたくないから嘘つくなんて面白いな。 いいえ、この会社は8年前から、その後も罵倒を繰り返す彼だが、 海外企業との商談と中途採用で現れた俺の存在により、彼の評価はひっくり返ることになる。 俺の名前は宮崎太郎。43歳の中年男性だ。 だが、今この社内では俺の名前を呼ばれることはほとんどない。 周囲からは中途採用の新人さん、中年の新入社員、おっさんと、まあ散々な言われ方をされている。 なぜこんな扱いを受けているのかというと、俺は8年間海外支社で支社長を務めていたが、 今は中途採用の平社員として働いている。 海外での経験は俺にとって誇りだった。 英語力には自信があるし、長年の海外での交渉経験で、実務能力や柔軟なコミュニケーション力も身につけてきた。 だが、本社の若い連中からすれば、中途採用で年だけ食ったおっさんとみなされている。 海外支社がそこそこ大きく成長してきたのを機に、俺の存在が本社の社長の目に止まった。 そこで、帰国して本社の若手を指導してほしいという思惑があったと聞かされ、万を示して戻ってきたのだが、 蓋を開けてみればこの手たらくだ。日本支社はどうしてこんなことになったのか。 いろいろ大人の事情が絡んでいるのかもしれない。 初出勤、朝、オフィスに入った瞬間、周囲の視線が刺さる。 誰もが俺を、あれは誰だ、という不思議な目で見ていた。 スーツ姿の俺は、8年ぶりに日本企業のフロアに足を踏み入れ、少しだけ緊張を感じる。 そこで声をかけてくれたのが大塚部長だった。 俺が戻ってくるにあたり、いろいろと寝回しをしてくれた人物らしい。 歳は50代の前半だろうか。優しそうな笑顔が印象的で、がっしりとした体格。 まるで現役の体系だった頃の体系を維持したかのように堂々としている。 宮崎、いや失礼、ここでは宮崎くんの方がいいのかな。 今日からうちの部署で働いてもらう。困ったことがあったら遠慮なく言ってくれよ。 俺はほっとした。海外死者時代にこの人とやりとりしたことはなかったが、

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おい、やめろ。 俺は驚きと怒りを抑えきれず声を荒げた。 突然、熱々のコーヒーが勢いよくかかってきたのだ。 ああ、すまんな。お前みたいな作業員は汚れた方が安心するだろう。 営業部長はうすら笑いとわざとらしい謝罪を口にした。 君は自分が何をしているかわかっているのか。 俺の問いかけに対し、彼は口元を歪めニヤニヤしているだけだった。 売金は熱処理が一番効くって聞いたから試したんだよ。 その態度には、自分が悪いことをしているという認識がまるでない。 しかし、彼が俺の正体を知った瞬間、顔色がみるみる変わっていった。 俺の名前は篠宮裕人、28歳。 大手メーカー、篠宮工業の開発部長をしている。 社長は俺の父、篠宮工造。 いずれは自分が後を継ぎ社長になると言われていた。 だが、それに甘んじるつもりはもうとうない。 今日も作業服を着て自分の足で現場に向かっている。 社員と同じ目線で話し、現場の空気を肌で感じるためだ。 これは、仕事の本質は現場にあるという俺の信念の現れでもあった。 今、俺が任されているのは、新商品の開発プロジェクト。 新たに100億円規模の製造ラインを増設するよう、社長から指示されている。 篠宮工業の未来を左右する重大な案件だ。 その商談のために、俺は業界でも名の知れた、 街道精密の本社へと向かっていた。 本社ビルは都内の一等地に堂々とそびえ立ち、 その存在感は圧倒的だ。 受付で社名を伝え、案内された会議室へ向かう途中のことだった。 「やめてください。」 突如廊下に響き渡った悲鳴のような声。 ただ事ではない空気に、思わず足を止めた。 声のする方へ目をやると、給頭室の中で若い社員が、

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いくらだ?どうせお前らが欲しいのは金だろ。 商談で2時間待たされた挙句。取引先の社長の第一声は、謝罪どころか、俺をバカにした発言だった。 私はお金よりもこの技術をどう扱うかが大事なんです。 何を偉そうなこと言ってんだ。結局は金がないと何もできないんだよ。 いいからその技術をようこそ。大企業の我が社が広めてやる。 その後も彼は、技術者全員を敵にする発言を繰り返している。 もういいです。この話はなかったことに。 これは大企業の甘い誘惑に負けず、技術者の俺が本当の栄光を掴むまでの物語である。 俺の名前は桐生理久。35歳。スタートアップ企業ギアサイクル社のCTO。最高技術責任者だ。 ここ数年、ずっと開発に取り組んできたブレークレスバッテリーシステム。通称BBSの検証データを眺めていた。 オフィスの静かな夜。モニターの青白い光が俺の顔を照らしている。 データは予想以上に安定していた。 停電や災害でも電力供給が途切れることのないバッテリーシステム。 BBSは俺が幼い頃からの夢を叶えてくれる技術だ。 コーヒーを一口飲んで、ふと15歳の夏の記憶が蘇る。 祖父は在宅医療を受けていて、呼吸器が欠かせなかった。 あの日、突然の停電で機械が止まりかけた時の恐怖は今でも鮮明に覚えている。 慌てて手動で空気を送る作業。祖父の苦しそうな表情。 数分だったが永遠に感じられた。 電力が途切れることで命が危険に晒される人がこの世にいる限り、必ず解決策を見つけてみせる。 その誓いが俺をエンジニアの道へと導いた。 そして去年の台風災害、避難所に試作品のBBSを持ち込み、 医療機器に原力を供給し続けることができた時は、ようやく自分の原点に立ち返れた気がした。 ドアが開き、同僚の佐々木が顔を出した。 【佐々木】桐生さん、まだいたんですか? 【佐々木】重大ニュースですよ。天道ロボティクスからコンタクトがあったそうです。 天道?あの大手か? 【佐々木】そうです。うちのBBS技術に超興味持ってるらしくて、 【佐々木】なんでも大規模投資、50億円規模の契約になるかもしれないって。 俺は眉を潜めた。確かにギアサイクル社の資金繰りは楽ではない。