俺の名前は朝野誠、35歳。中卒の工場勤務だ。花々しい経歴なんてない。高校にも行けなかった。 親父が病気で倒れて家計を支えるために、15歳の時から働き始めた。 でも、独学には誇りがある。機械いじりが好きで、 よなよな古い部品を集めては組み立てて、自分だけの発明品を作ってきた。 工場の片隅に設けられた自分の作業台の前に立ち、新しいジグの設計図に向かう。 修理工業の工場内は朝から機械音で活気に満ちていた。 朝野、この部品どうなってる? 部長が声をかけてくる。俺の直属の上司だ。 いつも眉間にシュワを寄せているが、目は優しい男だ。 はい。 この継手部分を改良して、耐久性を30%ほど向上させました。 図面通りに進めています。俺は自信を持って答えた。 大学や専門学校で正式に学んだわけじゃない。 すべて独学と経験だ。 でもその知識は本物だと自負している。 おお、またお前の独自改良か。 相変わらず頭の回転が早いな。 そう言って部長は肩を叩いていった。 この会社に入って8年。今では主任候補として認められている。 最初は中卒という肩書きに不安もあったが、結果を出し続けることで周囲の信頼を勝ち取ってきた自負がある。 家に帰ると妻の彩香が戦い笑顔で迎えてくれた。 彩香は俺より3つ年下の32歳。 おかえり、まこと。今日も遅かったね。 ああ、新しい部品の試作に時間がかかってな。 また何か発明してるの? その言葉に少し照れながらうなずく。 彩香は俺の発明熱を一番理解してくれる人だ。 ああ、製造ラインの効率化も考えててな。 もしうまくいけば作業時間が2割は短縮できる。 すごいじゃない。あなたの頭の中はいつも新しいアイディアでいっぱいね。 彩香はいつも俺を認めてくれる。 どんな小さな成功でも一緒に喜んでくれる。 そんな彼女がいるから自分に自信が持てる。 リビングのテーブルで夕食を食べながら今日あった出来事を話す。 とりとめのない日常の会話だが、こういう時間が一番落ち着く。 そういえば、会社で変な噂が流れてるんだ。 どんな噂? 弱さ会長の後任として今村ってやつが社長に就任するらしい。 へえ、どんな人なの? 会ったことはないけど噂じゃ学歴をやたら気にする人間らしい。 現場の意見なんか聞く耳持たないとか。 彩香は少し心配そうな顔をしたが、すぐに笑顔に戻った。 大丈夫よ。あなたの実力は証明済みだもの。 学歴なんて関係ないわ。 確かにそうだ。 実は俺、若い頃から独学で研究を続けて、 いくつかの特許権も取得している。 大手企業に勤めながら個人で特許を持つなんて珍しいことだと思う。 でもそれを自慢したことはない。 ただ黙々と自分のやるべきことをやってきただけだ。 修齢工業に入ったのも偶然だった。 工事現場で知り合った先輩が会長の岩澤隆二の著書を貸してくれた。 学歴より才能、肩書きより誠実さ。 その言葉に心を打たれた。 岩澤会長も高卒から身を起こした人だと聞いて、 ここなら俺でもやっていけると思った。 そして入社以来、工場スタッフとして認められるまでになった。 でも新社長の噂を聞くと少し不安がよぎる。 学歴史上主義の上司の下で、中卒の俺はやっていけるのだろうか。 翌日、工場に着くと休憩室に社員たちが集まっていた。 みんな何かのお知らせを見ている。 おい浅野、見てみろよ。 同僚が壁に貼られた紙を指差した。 目を通すとそれは社内新規プロジェクト募集の告知だった。 会長が提案した新しい取り組みらしい。 開発、経営、イベント企画など、 ジャンルを問わず自由にアイディアを出せるというものだ。俺が3つの特許を取得して会社を支えていると知らず、視察にきた新社長「中卒のクズがなぜうちに?今すぐクビ!」俺「わかりました」➡︎退職した翌日、衝撃の展開に…
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中卒はこの会社に必要ない。 今日でクビだ。 新社長の鶴田は企業改革という名目で、理不尽に俺を解雇処分した。 輝かしい経歴を持つ彼には、低学歴の人間に何も期待していないのだろう。 わかりました。では辞表等。 こちらの書類も添えておきますね。 嬉しそうに俺の退職届を受け取った鶴田だが、 もう一枚の書類を見て顔面蒼白となり、 ま、まさかお前……。 無能と罵っていた俺の本当の姿を知り、彼は震え出すのだった。 俺の名前は震動春樹、28歳。 現在転職したばかりの会社で、新規事業部に所属している。 この国で合格率わずか3%という超難関資格を持っている。 前職ではこの資格を生かして新規プロジェクトを成功に導き、それなりの評価も得ていた。 だがもっといい待遇を求めて今の会社に転職を決めた。 この資格には厄介な特徴がある。 特殊なシステムを起動させるためには資格保有者本人の承認が必要なのだ。 つまり俺がいなければシステムは動かない。 転職先の会社はまさにそのシステムを使った新事業を立ち上げたばかりだった。 入社初日、新事業部のフロアに向かうと一人の女性が待っていた。 しんどうさんですね。お疲れ様です。部長のふゆきかすみです。 しんどうはるきです。よろしくお願いします。 資格をお持ちだと聞いています。本当に助かります。 あなたが来てくれて心から嬉しいです。 その言葉に俺は安堵した。 まず事業部の概要を説明しますね。 私たちは特殊システムを使った新しいサービスを展開しています。 システムの起動にはあなたの資格が必須なんです。 前職でも似たようなシステムを扱っていました。お役に立てると思います。 部長は俺をオフィス内を案内しながら説明を続けた。活気のある職場だった。
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いくらだ?どうせお前らが欲しいのは金だろ。 商談で2時間待たされた挙句。取引先の社長の第一声は、謝罪どころか、俺をバカにした発言だった。 私はお金よりもこの技術をどう扱うかが大事なんです。 何を偉そうなこと言ってんだ。結局は金がないと何もできないんだよ。 いいからその技術をようこそ。大企業の我が社が広めてやる。 その後も彼は、技術者全員を敵にする発言を繰り返している。 もういいです。この話はなかったことに。 これは大企業の甘い誘惑に負けず、技術者の俺が本当の栄光を掴むまでの物語である。 俺の名前は桐生理久。35歳。スタートアップ企業ギアサイクル社のCTO。最高技術責任者だ。 ここ数年、ずっと開発に取り組んできたブレークレスバッテリーシステム。通称BBSの検証データを眺めていた。 オフィスの静かな夜。モニターの青白い光が俺の顔を照らしている。 データは予想以上に安定していた。 停電や災害でも電力供給が途切れることのないバッテリーシステム。 BBSは俺が幼い頃からの夢を叶えてくれる技術だ。 コーヒーを一口飲んで、ふと15歳の夏の記憶が蘇る。 祖父は在宅医療を受けていて、呼吸器が欠かせなかった。 あの日、突然の停電で機械が止まりかけた時の恐怖は今でも鮮明に覚えている。 慌てて手動で空気を送る作業。祖父の苦しそうな表情。 数分だったが永遠に感じられた。 電力が途切れることで命が危険に晒される人がこの世にいる限り、必ず解決策を見つけてみせる。 その誓いが俺をエンジニアの道へと導いた。 そして去年の台風災害、避難所に試作品のBBSを持ち込み、 医療機器に原力を供給し続けることができた時は、ようやく自分の原点に立ち返れた気がした。 ドアが開き、同僚の佐々木が顔を出した。 【佐々木】桐生さん、まだいたんですか? 【佐々木】重大ニュースですよ。天道ロボティクスからコンタクトがあったそうです。 天道?あの大手か? 【佐々木】そうです。うちのBBS技術に超興味持ってるらしくて、 【佐々木】なんでも大規模投資、50億円規模の契約になるかもしれないって。 俺は眉を潜めた。確かにギアサイクル社の資金繰りは楽ではない。
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事故で1ヶ月は出社できない? どうせお前は無能なんだから退職しろよ。 俺が会社に電話をすると、部長は心配するどころか、笑いながら罵倒してきた。 部長、お言葉ですが、私が抜けて本当に大丈夫でしょうか? おいおい、役立たずの平社員のおっさんがいらくられば、人件費削減になってむしろ助かるぞ。 そうですか。では、望み通り退職した翌日、俺がいない会社では今までに類を見ない大問題を起こし、部長は絶望することになる。 俺の名前は桐島達也。 35歳。産業建設という中堅建設会社の総務部に所属している。 会社では、ああ、桐島か。程度の扱いで。地味な雑用係りというのが定評だ。 朝日がまだ昇り切らない午前7時。オフィスには誰もいない。 だが俺はいつものように出社し、パソコンの電源を入れる。 画面が起動するまでの間、昨日届いた工事現場からの図面を机に広げる。 また修正箇所があるな。赤ペンで問題点をチェックしながら、頭の中で解決策をシミュレーションする。 図面の寸法ミスは、ただの計算間違いだけじゃない。 これが、行政提出書類に反映されると、プロジェクト全体に影響する。 キーボードを叩く音だけが静かな空間に響く。 観光庁提出用の建築確認申請書を修正し、倉庫の建材リストも更新。 誰も見ていないところでこそ、俺は本領を発揮する。 種類からは雑用係と見られているが、実は建築図面から法規制、在庫管理システムまで、 この会社の裏側を全て把握しているのは俺だけだった。 時計が9時を指す頃、エレベーターの音が聞こえてきた。 そろそろ他の社員たちが出社する時間だ。 急いで手元の書類を整理する。塩野谷部長が一番に姿を現した。 48歳。プライドだけは一人前の総務部長だ。 お、桐島。また早いな。何やってる。 おはようございます。 昨日の工事写真データの整理をしていました。 はぁ?大した仕事もないのに早出して。余計な残業代かけるなよ。 にがにがしい表情で言い放ち、自分のデスクへと歩いていく。 すぐ後からやってきたのは同じ総務部の木村葵。