下請けの分際で偉そうにすんな。お前は外で一生待ってろ。 大手取引先に商談に行く俺だが、商談時間になっても現れない。 連絡がついたかと思えば、この始末だ。 仮ににならん話をどうせ持ってきたんだろ、広次貴君。 その後も3時間待たされた俺は、我慢の限界を迎える。 そしてこの商談が流れた翌日、ニュースを見た社長は震え上がることになる。 俺の名前は篠原大地、35歳。 スタートアップ企業ブルースプリング社でリードエンジニアをしている。 小さなラボで長時間かけて開発した浄化装置は、ようやく実用化の目処が立った。 ウォータースキャンシステム、略してWSSと呼んでいる。 見た目は大したことない箱型の装置だが、この中には俺が人生をかけて研究してきた技術が詰まっている。 今日もラボでテストを重ねていた。 泥水のように濁った水をWSSに注ぎ込み、フィルターを通す。 数値を確認しながら微調整を繰り返す作業に没頭していると、背後から声がかかった。 篠原さん、すごいですね。この透明度、ほとんど飲料水レベルじゃないですか。 振り返ると、若手研究員が目を輝かせて装置から出てきた水を見つめていた。 確かに、入れた時と出てきた水では雲泥の差だ。 透明度が増し、有害物質の数値もほぼゼロ。 俺は満足げにうなずいた。 まだ改良の余地はあるが、基本的な機能は確立できた。 これで大規模テストに進める。 ひとしきり結果を記録し終えると、時計を見た。 もう夜の9時を回っている。他のスタッフはほとんど帰った後だ。 片付けを済ませ、ラボを出ようとすると、窓の外に映る自分の姿が目に入った。 地味なグレーのスーツに少し疲れた顔。 大学時代からずっと研究一筋で、派手なところは何一つない。 だが、この地味な外見の奥には、誰にも負けない情熱を秘めている。 きれいな水をみんなに。 俺は独り言のようにつぶやいた。 若手の研究員がそれを聞きつけて、 石原さん、 ああ、前も言ったと思うんだが、 俺が10歳の時、住んでいた町の川が工場排水で汚染された。 透明だった川は濁り、悪臭を放つようになったんだ。 地元の子供たちは皮膚炎を起こし、何人かは重い病気になった。 俺の親友のケンタもその一人だった。 ええ、ひどい話ですよね。 あの時の無力感は今も忘れられない。 水が汚れるということは、命が脅かされるということだ。 だからこそ、俺は誰でも安全できれいな水を得られる社会を実現したいと 心に決めた。 大学で環境工学を専攻し、水質浄化の研究に没頭したのも、 全てはあの経験がきっかけだったんだ。 私も協力しますので、絶対にこのシステムは実用化させましょうね。 俺はうなずき、研究員と堅く握手をした。 翌朝、会社に着くとすぐに社長室に呼ばれた。 何かあったのだろうか。 部屋に入ると、社長と営業部長が興奮した表情で待っていた。 おお、篠原、ついに来たぞ。大きな話が。 大きな話ですか? え、大手のサイオンケミカルズから正式に協業出しが来たんです。 規模は50億円相当のライセンス契約。 世界的に導入するには、相応の資金や流通網がいる。 この契約が成立すれば、一気に装置を普及できるぞ。 俺は驚きのあまり言葉を失った。 50億円。 ブルースプリングのような小さなスタートアップにとって桁違いの金額だ。 確かに、いくら革新的な技術があっても、普及させるには資金力と流通網を持つ大企業の後ろ盾が必要だ。商談のため大企業の取引先へ行くと、作業員と勘違いし3時間待たされた俺。取引先社長「下請けの忍耐力を鍛えたんだよw」俺「もういい。50億の契約は白紙で」「え?」
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今までご苦労さん。次拾ってもらえる会社があれば、頑張れよ。 社長の息子にはめられ、俺は会社をクビになってしまった。 中卒はこの会社の恥なんだ。ようやくこれですっきりするな。 彼は異様に学歴などの肩書きにこだわっているようなので、教えてあげるしかないな。 世の中に必要のない人間なんていないということを。 俺がいなくなったこの会社は、今まで類を見ないほどの大混乱に陥ることになる。 俺の名前は北條直樹、28歳。中卒のシステムエンジニアだ。 学校にはいかなかったが、独学でプログラミングを極めた自負はある。 今はフロンティアシステムという中堅IT企業で働いている。 会社の主力システムの開発と運用を一点になっているんだ。 今日もいつも通りオフィスに足を踏み入れた瞬間、何か様子がおかしい。 社員たちがざわついている。みんなが掲示板の前に集まって、何かを見ている。 おはようございます。同僚の挨拶にさらっと返しながら、俺も掲示板に近づいた。 そこに貼られていたのは、希望退職者募集と書かれた紙。 そして、そこには俺の名前、北條直樹だけが大きく載っていた。 これは、どういうことだ?声に出さず眉を潜めて紙を見つめる。 周囲からは、どういうこと?北條さんだけ?という声が聞こえてくる。 ああ、見つけたか、北條。 背後から聞こえてきた声に振り返ると、そこには桜場勝政の姿があった。 社長の息子で、名ばかりの最高戦略責任者だ。 32歳だが、会社での実務経験はほとんどない。 それでいて、いつも偉そうにしている。 特に、俺のことを目の敵にしているようだ。 どうだ、感想は。 駐属なんて役立たず、さっさと退職しろよ。 嘲笑うような表情で勝政が言う。 その目には明らかな敵意が見て取れた。 それが、会社の正式な方針なんですか? できるだけ冷静に、しかし毅然とした態度で尋ねる。 当たり前だろ。俺は最高戦略責任者だぞ。決定権は俺にある。
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おい、待て。これは一体何だ? 出社した俺は、社内掲示板を見て驚きを隠せなかった。 そこには、希望退職者の張り紙があり、俺の名前が記載されていた。 中卒が会社にいると知られたら、評判が下がるから、自ら辞めてくれて助かるよ。 社長の息子である東條は俺を嫌っていて、今回の仕打ちも彼の仕業なのだろう。 彼は低学歴の人間を下に見ているようだから、教えてあげるしかないな。 東條の希望通りに退職したことで、この会社の評判はひっくり返ることになる。 俺の名前は鳩総太、27歳。中卒だが独学でプログラミングを学び、今はメトロリンクソリューションズというIT企業で働いている。 大げさじゃなく、会社の私力オンラインサービスを支えているのは俺だ。 契約上は俺個人が所有するクラウドホストで、会社のシステムを動かしている形になっている。 今日も普段通り出社してオフィスに入った瞬間、何か様子がおかしいことに気づいた。 社員たちが社内掲示板の前に集まり、ざわついている。 どうしたんだ? 近づいてみると、A4の紙が貼られていた。希望退職者と書かれている。 そして、その下に俺の名前だけが目立つように記載されていた。 はあ?思わず声が漏れる。周囲の社員たちも、どういうこと?鳩さんだけ?とざわめきが広がっていた。 まさか、と思った矢先。 お、本人来たな。中卒が自主退職?偉いじゃねえか。 嫌な声が背後から聞こえてきた。振り返ると、 当庶和鷹が腕を組んで立っていた。社長の息子で名ばかりの最高戦略責任者だ。 大卒を鼻にかけ、俺を見下すことしか能がない。 これは会社の正式な方針なんですか?聞いていませんが。 冷静さを保ちつつ、尋ねると、和鷹はさらに高圧的な態度を取った。 俺は最高戦略責任者だ。俺が決めたんだよ。問題あるか? 社内の空気が凍りついた。なぜわざわざリストに俺の名前だけ。嫌がらせか? それに、会社的にも損になるはずだが、周囲の社員たちは、 ハトリさんがいなくなったら、システムどうするの? 今のサービス、全部あの人が管理してるんでしょ?と、小声で話し合っている。 彼らには、実情がわかっているからだ。 何ブツブツ言ってるんだ。決まったことだからな。さっさと退職届け出せよ。
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商売臭い町工場の人間を、俺は信用しない。帰れ。 俺が大手企業に商談に行くと、担当の白石は俺を門前払いしてきた。 待ってください。私たちの技術は本物なんです。一度話を聞いていただければ。 そういうのいいから。金儲けのために俺を騙そうとしてるのバレバレ。 その後も、しっしと手で俺を追い払う仕草を繰り返している。 俺はこんな奴に頭を下げる必要があるのか。資金繰りには困っている。 だが、この技術はこんな奴に扱わせるわけにはいかない。 じゃあいいです。さようなら。 肌になった今回の一件起きに、俺と白石は人生が大きく変わることになる。 俺の名前は橘龍介。29歳。 今は亡き父から受け継いだ町工場、橘炭鉱所の社長を務めている。 油の匂いが染み付いたこの工場で、今日も一日が始まる。 「坊ちゃん、今日もよろしくな。」 鋭いが、どこか優しさの滲む声で、大竹が俺に声をかけてくる。 彼の名前は大竹守。60歳。 父の代から工場に勤めてきた喫水の職人だ。 「はい。」 俺は昔ながらのハンマーを握り直し、すぐさま返事をする。 そして息を止めた。 全神経を耳に集中させ、鋼を叩く音に神経を研ぎ澄ます。 俺たち職人は色で、音で、そして手に伝わる感触で鉄の今を読み取る。 鉄が冷えれば音は甲高く鋭く耳に突き刺さる。 逆に熱を帯びた鉄はまるで息をするように低く柔らかく響く。 この音、この感覚。 それは俺が物心ついた頃からずっと側にあったものだった。 周囲はどうせ橘炭鉱床の跡取りになるだろうと決めつけていたが、 親父は違った。 お前の人生はお前が決めろと工場に無理に引き込むことはしなかった。 けれどある日、 高校に入った頃、ずっと無関心だった親父の仕事にふと興味を抱く。