中卒はこの会社に必要ない。 今日でクビだ。 新社長の鶴田は企業改革という名目で、理不尽に俺を解雇処分した。 輝かしい経歴を持つ彼には、低学歴の人間に何も期待していないのだろう。 わかりました。では辞表等。 こちらの書類も添えておきますね。 嬉しそうに俺の退職届を受け取った鶴田だが、 もう一枚の書類を見て顔面蒼白となり、 ま、まさかお前……。 無能と罵っていた俺の本当の姿を知り、彼は震え出すのだった。 俺の名前は震動春樹、28歳。 現在転職したばかりの会社で、新規事業部に所属している。 この国で合格率わずか3%という超難関資格を持っている。 前職ではこの資格を生かして新規プロジェクトを成功に導き、それなりの評価も得ていた。 だがもっといい待遇を求めて今の会社に転職を決めた。 この資格には厄介な特徴がある。 特殊なシステムを起動させるためには資格保有者本人の承認が必要なのだ。 つまり俺がいなければシステムは動かない。 転職先の会社はまさにそのシステムを使った新事業を立ち上げたばかりだった。 入社初日、新事業部のフロアに向かうと一人の女性が待っていた。 しんどうさんですね。お疲れ様です。部長のふゆきかすみです。 しんどうはるきです。よろしくお願いします。 資格をお持ちだと聞いています。本当に助かります。 あなたが来てくれて心から嬉しいです。 その言葉に俺は安堵した。 まず事業部の概要を説明しますね。 私たちは特殊システムを使った新しいサービスを展開しています。 システムの起動にはあなたの資格が必須なんです。 前職でも似たようなシステムを扱っていました。お役に立てると思います。 部長は俺をオフィス内を案内しながら説明を続けた。活気のある職場だった。 それと、しんどうさんに説明しなければならないことがあって。 実はこの事業は仙台社長の肝入りで始まったプロジェクトなんですが、つい最近社長が変わったんです。 鶴田健二さんという方ですが。 部長が一瞬言い淀む様子を見せるが、すぐに元の笑顔に戻った。 その日の午後、新社長との面談が設定されていた。 鶴田健二、45歳。 第一印象は、なんとなく冷たい感じがした。 しんどう君だね。鶴田だ。君の経歴は見させてもらった。 しんどうはるきです。よろしくお願いします。 資格を持っているということだが、我が社ではコストパフォーマンスを重視している。君にはそれに見合った働きを期待している。 はい、精一杯頑張ります。 そうそう、君の資格手当だが、入社前の話とは少し変更がある。 資格保有者は君だけではない。いずれ人を増やしていく予定だ。そこまでの金額は出せないということだ。 前任の社長が決めていたことだから、変更させてもらうよ。 俺は少し驚いた。確かに入社前の面接では、もう少し高い手当の話を聞いていた。 どの程度の変更でしょうか。 詳細は人事から連絡させる。それから来週には事業部内で報告会がある。君にも新しいメンバーとして挨拶をしてもらう予定だ。 面談が終わり、新社長が去った後、俺は戸惑った。報告会での挨拶、俺の最大の弱点だった。 人前で話すことが極度に苦手で緊張すると言葉が出なくなってしまう。夕方、部長が声をかけてくれた。 進藤さん、初日はどうでしたか? 皆さん親切でありがたいです。 実はちょっと相談があります。 鶴田社長は経費削減にとても熱心で、時として強引な手法を取ることがあります。もし何かあったらすぐに私に言ってください。 部長の言葉には明らかに警戒の色が込められていた。 わかりました。 初日を終えて会社を出るとき、俺は複雑な気持ちだった。 新しい環境への期待と新社長への不安、そして来週の報告会への恐怖。 それでも部長の温かさとこの事業への期待感は確かにあった。
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よーし、これで俺は社会貢献もできてお金も稼げる。いいこと尽くしだな。 同じ病院に勤めている西条は、俺が長年研究してきた臨床データを盗み、論文にして世に広めようとしている。 やあ、持つべきものは友ってやつ?俺は恵まれてるわ。 その後も彼はニヤニヤと俺に長ったらしく説明を繰り返していた。 そのデータだけはやめろ。取り返しのつかないことになるぞ。 何急にムキになってんだよ。世のため人のためだぞ。誰が言おうが関係ねえだろうが。 彼は何もわかっていない。今このデータを世に出すわけにはいかないのだ。 そんなことを知るよしもない彼は、今回の浅はかな行動を一生後悔することになる。 俺の名前は北條宗介、38歳。東洋医科大学病院の研究職兼医師だ。 数年前まで海外の研究機関に勤めていたが、日本に戻ってきた帰国組の一人。 派手さはなく地味な医者という印象を持たれがちだ。 そんな俺が今いるのは、難治性がんや希少疾患の先端研究を行う東洋医科大学病院の研究センター。 国内外から期待されている重要拠点だ。 今日も変わらず研究データと向き合い、患者たちの検査結果を丁寧に分析している。 北條君、今日もお熱心だね。 振り返ると、病院の理事長である西条照明が笑顔で立っていた。 65歳とは思えない凛とした佇まいの持ち主で、一代でこの病院を大きく発展させた人物だ。 あ、理事長、こんにちは。今、免疫治療の新しいデータを分析していました。 君を迎えたのは正解だったよ。海外での君の実績は知っている。 あの画期的な免疫療法の試験運用の成功は国際的にも高く評価されていた。 君は彼の言葉に少し照れつつも、心の中では嬉しさを感じる。 日本ではまだあまり知られていませんが。 それがもったいない。もっと自分をアピールしてもいいんだよ。 患者さんのためになる治療法を確立することが第一です。華やかな発表は苦手で。 そう言いかけた時、廊下から高圧的な声が聞こえてきた。 声の主は理事長の老いである西条修司。29歳という若さで病院の事業企画室長に就任している。 見た目は爽やかだが、内面は…。 おい、この書類は何だ。こんな予算配分では話にならない。やり直せ。 部下らしき職員が小さくなりながら立ち去るのを見送った後、修司は俺たちに気づいた。 あ、おじさん。こんなところにいたんですか。
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ちょっと待て、一体どういうことだ? 俺は取引先の新社長であるカンバヤスから、突然契約破棄を言い渡された。 ああ、海外でお前のとこより安く製造できるところを見つけてな。 コストカットってやつだ。そういうことだから。 その後も、俺が何を言っても彼は聞く耳を持たない。 お前が路頭に迷う姿を楽しみにしてるぜ。 彼は中学の同級生でもあり、その頃の印象のまま俺をバカにしている。 ただ、彼の今回の行動は大きな間違いだ。 俺の会社と契約を解除したことで、カンバヤスは全てを失うことになる。 俺の名前は品川ハヤト。 この下町で三代続く町工場、品川工業の社長をやっている。 学歴なんてものはないが、腕一本で今までやってきた自負はある。 朝日が昇り始めた工場の入り口に立ち、深呼吸をする。 古い建物だが、中にある機械たちは、最新とは言わないまでも十分に戦力になる相棒たちだ。 シャッターを開け、工場に足を踏み入れると、金属の匂いと油の香りが鼻をつく。 この匂いは好きだ。 社長、おはようございます。 先に来ていた古株の職人、田中さんが元気よく声をかけてくる。 俺はそれに返事を返しながら、学校へ行く息子を見送る。 行ってきます。 いつもなら元気に飛び出していくはずなのに、どこか元気がない。 おう、行ってらっしゃい。 先に出た息子の背中を見て、ミサが心配そうな顔で俺を見上げる。 最近、総助元気ないわね。 ああ、気になってたんだ。何かあったのか。 昨日も、学校に行きたくないって言ってたの。何か嫌なことがあるのかもしれないわ。 かつて、自分も子供の頃、工場の息子は貧乏だと言われて、片身の狭い思いをしたことがある。 まさか、息子も同じ思いをしているのではないか。胸が締め付けられる思いがした。 そうか。 今夜、総助と話してみるよ。
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俺の名前は朝野誠、35歳。中卒の工場勤務だ。花々しい経歴なんてない。高校にも行けなかった。 親父が病気で倒れて家計を支えるために、15歳の時から働き始めた。 でも、独学には誇りがある。機械いじりが好きで、 よなよな古い部品を集めては組み立てて、自分だけの発明品を作ってきた。 工場の片隅に設けられた自分の作業台の前に立ち、新しいジグの設計図に向かう。 修理工業の工場内は朝から機械音で活気に満ちていた。 朝野、この部品どうなってる? 部長が声をかけてくる。俺の直属の上司だ。 いつも眉間にシュワを寄せているが、目は優しい男だ。 はい。 この継手部分を改良して、耐久性を30%ほど向上させました。 図面通りに進めています。俺は自信を持って答えた。 大学や専門学校で正式に学んだわけじゃない。 すべて独学と経験だ。 でもその知識は本物だと自負している。 おお、またお前の独自改良か。 相変わらず頭の回転が早いな。 そう言って部長は肩を叩いていった。 この会社に入って8年。今では主任候補として認められている。 最初は中卒という肩書きに不安もあったが、結果を出し続けることで周囲の信頼を勝ち取ってきた自負がある。 家に帰ると妻の彩香が戦い笑顔で迎えてくれた。 彩香は俺より3つ年下の32歳。 おかえり、まこと。今日も遅かったね。 ああ、新しい部品の試作に時間がかかってな。 また何か発明してるの? その言葉に少し照れながらうなずく。 彩香は俺の発明熱を一番理解してくれる人だ。 ああ、製造ラインの効率化も考えててな。 もしうまくいけば作業時間が2割は短縮できる。 すごいじゃない。あなたの頭の中はいつも新しいアイディアでいっぱいね。